ニューヨークで長年愛され、日本人旅行者の間でも知られていた没入型演劇「Sleep No More(スリープ・ノー・モア)」。

その舞台となったマンハッタン・チェルシーの建物が2026年秋、まったく新しい劇場へと生まれ変わります。

しかも、そこで上演されるのは日本の漫画家・安野モヨコの『鼻下長紳士回顧録』を原作とした新作ミュージカル

タイトルは、

『MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN』

です。

2026年9月25日からプレビュー公演が始まり、10月15日に正式開幕。2027年1月3日までの期間限定公演が予定されています。

そして注目したいのは、単に「日本漫画が舞台化される」というだけではありません。

「Sleep No More」で知られた伝説的な場所、安野モヨコ作品、ブロードウェイのトップクリエイター、そしてNetflix作品でも知られる若手スター。

さまざまな要素が交差する、2026年秋のニューヨークで注目したい新作のひとつです。


『MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN』とは?

原作は、漫画家・安野モヨコによる『鼻下長紳士回顧録』。

2013年から2018年まで祥伝社の「FEEL YOUNG」で連載された作品で、単行本は上下巻で刊行されています。

物語の舞台は20世紀初頭のパリ。

主人公コレットは「Night Egg」と呼ばれる娼館で働く女性です。

彼女はそこで出会う風変わりな客たちの欲望、幻想、告白、そして人には見せられない悲しみを書き留めていきます。

最初は「見られる側」だったコレットが、次第に人間を観察し、言葉にし、書き手として自分自身の力を発見していく――。

その一方で、幼なじみのレオンとの関係から抜け出すことができず、愛情と執着、自立と自己破壊の間で揺れ動きます。

華やかなパリの夜の世界を背景にしながら、人間の欲望や孤独、女性の自立を描く、大人向けの作品といえるでしょう。


実はかなり画期的?「日本漫画×アメリカン・ミュージカル」

今回のプロダクションが興味深い最大の理由のひとつが、その成り立ちです。

制作側の公式発表では、『MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN』は日本の漫画を原作として英語で制作される初のアメリカン・ミュージカルとされています。

日本漫画の海外展開といえば、これまではアニメ化、実写映画化、Netflixなどでのドラマ化が目立ってきました。

しかし今回は、

日本の漫画 → ニューヨークの本格的な英語ミュージカル

という流れ。

しかも、原作の世界観を単純に再現するだけではなく、ブロードウェイで活躍するクリエイターたちが音楽・脚本・振付・舞台美術を通して再構築します。

日本発の漫画文化が、アメリカのミュージカル文化とどう融合するのか。

ここは日本人にとっても非常に興味深いポイントです。


主演はソフィア・アン・カルーソ

主人公コレットを演じるのは、Sophia Anne Caruso(ソフィア・アン・カルーソ)

ブロードウェイ版『Beetlejuice(ビートルジュース)』でリディア・ディーツ役をオリジナルキャストとして演じ、一躍注目を集めた俳優です。

Netflix映画『The School for Good and Evil』では主人公のひとり、ソフィーを演じています。

さらに日本人にとって注目なのが、Netflix実写版『ONE PIECE』シーズン2。

カルーソはミス・ゴールデンウィーク役として出演しています。NetflixとONE PIECE公式の双方でキャストが確認されています。

つまり、

『ONE PIECE』のミス・ゴールデンウィーク役の俳優が、今度は安野モヨコ作品の主人公をNYの舞台で演じる

という、日本のエンタメファンにとっても面白いキャスティングになっています。


共演者もブロードウェイ経験者がずらり

2026年8月17日に発表されたフルキャストもかなり豪華です。

コレットの幼なじみレオン役には、『Beautiful: The Carole King Musical』『Jersey Boys』などに出演してきたCory Jeacoma(コリー・ジーコマ)

ナナ役には『Tina: The Tina Turner Musical』で知られるNkeki Obi-Melekwe

マダム役には『Little Women』などに出演し、Drama Desk Awardへのノミネート経験もあるJenny Powersが参加します。

さらに『The Lion King』『Aladdin』『& Juliet』『Les Misérables』『Frozen』『Moulin Rouge!』『Smash』など、ニューヨークの人気作品に出演経験を持つ俳優たちがアンサンブルに名を連ねています。


音楽は『春のめざめ』のダンカン・シーク

音楽・作詞を担当するのはDuncan Sheik(ダンカン・シーク)

ブロードウェイファンなら『Spring Awakening(春のめざめ)』で知っている人も多いでしょう。

同作品ではBest Original ScoreなどのTony Awardを獲得し、キャストアルバムもGrammy Awardを受賞しています。

さらに『American Psycho』のミュージカル版なども手がけてきました。

繊細さとダークさを併せ持つ音楽を得意とするシークと、『鼻下長紳士回顧録』の退廃的なパリの世界観。

この組み合わせは、本作の大きな見どころになりそうです。


脚本を担当するのは日米にルーツを持つリア・ナナコ・ウィンクラー

脚本(Book)を担当するのはLeah Nanako Winkler(リア・ナナコ・ウィンクラー)

鎌倉と米国ケンタッキーにルーツを持つ劇作家・脚本家で、A24のドラマ『Ramy』では脚本チームの一員としてPeabody Awardを受賞。

そのほか『Love Life』『Schmigadoon!』『The Summer I Turned Pretty』『Elsbeth』などのテレビ作品にも参加しています。

日本で生まれた漫画をアメリカの観客に向けて舞台化する作品に、日米双方の文化背景を持つ脚本家が参加している点も興味深いところです。


演出・振付はトニー賞受賞者ロブ・アシュフォード

演出と振付はRob Ashford(ロブ・アシュフォード)

Tony Award、Olivier Award、Emmy Awardなどの受賞歴を持つ演出家・振付家です。

さらに舞台美術には、トニー賞を3度受賞しているScott Pask

衣装デザインには、なんとトニー賞8度受賞のCatherine Zuber

照明はBrian Tovar、音響はTony Award受賞者のCody Spencerが担当します。

キャストだけでなく、舞台裏にもブロードウェイの一線級スタッフが集結しているわけです。


そして最大の注目ポイントが「劇場」

今回の公演が行われるのは、

The Night Egg at the Culture Club

住所は、

530 W. 27th St., New York, NY 10001

マンハッタンのチェルシー地区です。

この住所を見てピンとくるニューヨークの演劇ファンもいるかもしれません。

そう。

ここは長年、Sleep No Moreが上演されていた場所です。


伝説の「Sleep No More」とは?

『Sleep No More』は、イギリスの劇団Punchdrunkが生み出した没入型演劇。

シェイクスピアの『マクベス』をベースにしながら、ヒッチコック映画やフィルム・ノワール的な世界観を組み合わせた作品でした。

普通の舞台と大きく違うのは、観客が客席に座って観るのではないこと。

観客は仮面を着け、巨大な建物の中を自由に歩き回ります。

どの俳優についていくのか。

どの部屋に入るのか。

何を見るのか。

すべて自分で決めるため、観客によって体験するストーリーが変わります。

ニューヨーク公演は2011年3月に始まり、2025年1月5日に最終公演を迎えました。Drama Desk AwardのUnique Theatrical Experienceなども受賞しています。

約14年間にわたりニューヨークの「体験型エンターテインメント」を象徴してきた場所でした。


さらに昔はNYを代表する伝説的ナイトクラブ「Twilo」

この建物の歴史をさらにさかのぼると、もうひとつ面白い事実があります。

1990年代には、ここにTwiloという巨大ナイトクラブがありました。

Twiloは1995年から2001年まで営業し、当時のニューヨークのクラブカルチャーを代表する場所のひとつでした。

その後いくつかのクラブを経て、2011年から『Sleep No More』の世界へ。

そして2026年。

今度は20世紀パリの「Night Egg」へと変身します。

つまり、この場所は、

NYナイトクラブ → 没入型『マクベス』 → 日本漫画原作ミュージカル

と、時代ごとにまったく違うエンターテインメント空間へ変化してきたことになります。

劇場そのものにも物語があるのです。


「The Night Egg」という名前にも意味がある

新劇場の名前「The Night Egg」は適当につけられたものではありません。

原作『鼻下長紳士回顧録』に登場する場所から名付けられています。

公開された劇場イメージでは、一般的なブロードウェイ劇場とはかなり違い、観客席が舞台を取り囲むような構造が印象的です。

『Sleep No More』時代とは異なる作品ですが、「建物そのものを世界観の一部として体験する」というDNAはどこか受け継がれているようにも見えます。

かつて観客が仮面をつけて『マクベス』の世界を歩いた場所で、今度は安野モヨコが描いたパリの夜の世界が広がる。

この「場所の記憶」も含めて楽しみたい作品です。


上演時間は?

チケット販売サイトTodayTixでは、現時点で上演時間を

約1時間40分・休憩なし

と案内しています。

ただし、新作ミュージカルはプレビュー期間中に演出や構成が変更される場合があります。

実際に観劇する際は最新情報を確認することをおすすめします。


公演スケジュール

現時点で発表されている予定は以下の通りです。

プレビュー開始:2026年9月25日(金)

正式オープニング:2026年10月15日(木)

公演終了予定:2027年1月3日(日)

劇場:The Night Egg at the Culture Club

住所:530 W. 27th St., New York, NY 10001

チケットは2026年8月20日から発売されています。

チケット・最新公演情報は『MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN』公式サイトで確認できます。


こんな人には特に注目の作品

この作品は、いわゆる「ブロードウェイ好き」だけでなく、

  • 安野モヨコ作品が好き
  • 日本漫画の海外展開に興味がある
  • 『Sleep No More』を観たことがある
  • 『ONE PIECE』実写版を観ている
  • 『Beetlejuice』が好き
  • 『Spring Awakening』などダンカン・シーク作品が好き
  • NYで少し変わったエンターテインメントを体験したい
  • 2026年秋〜冬にニューヨーク旅行を予定している

という人にもチェックしてほしい作品です。


Ninavi注目ポイント:これは「漫画の舞台化」だけではない

今回のニュースで特に面白いのは、日本漫画がアメリカでミュージカルになるという点だけではありません。

安野モヨコという日本の漫画家。

20世紀初頭のパリという舞台。

ブロードウェイのトップクリエイター。

Netflix『ONE PIECE』にも出演する主演俳優。

90年代NYの伝説的クラブTwilo。

そして、14年近く『Sleep No More』の世界だった建物。

これだけ異なる文化と時代が、530 West 27th Streetというひとつの場所で交差します。

『Sleep No More』を知っている人にとっては「あの建物がどう変わるの?」という興味があり、日本人にとっては「安野モヨコ作品がニューヨークでどう表現されるの?」という別の興味があります。

さらに今回のプロダクションが掲げる「日本漫画を原作とする英語のアメリカン・ミュージカル」という位置づけを考えると、日本の漫画IPが海外で展開される新しい形としても注目したい作品です。

2026年秋、ニューヨークを訪れる予定がある人はチェックしてみてはいかがでしょうか。

『Sleep No More』の記憶が残る場所で、日本の漫画から生まれた新しいニューヨークの夜が始まります。

※公演日程、上演時間、チケット価格などは変更される可能性があります。観劇前に公式サイトで最新情報をご確認ください。