2026年8月18日、米移民局(USCIS)は永住権(グリーンカード)申請における「パブリックチャージ(公的扶助依存)」審査の新しい運用指針を発表しました。9月18日から施行されるこの新基準は、トランプ政権が進める合法移民抑制策の中でも特に実務への影響が大きい変更のひとつです。

家族ベース・雇用ベースでグリーンカードを申請する予定がある方はもちろん、配偶者や家族が申請を控えている方にとっても他人事ではない内容なので、背景から実務上の注意点まで詳しく整理しました。

そもそも「パブリックチャージ」とは

パブリックチャージとは、移民国籍法(INA)212条(a)(4)に定められた「入国拒否事由」のひとつで、「将来的に政府の公的扶助に依存する可能性が高い人物」を指します。永住権審査では、審査官がこの可能性を次の5つの法定要素をもとに総合的に判断します。

  • 年齢
  • 健康状態
  • 家族構成
  • 資産・収入・その他の財政状況
  • 学歴および職業スキル

これに加えて、スポンサーが経済的支援を誓約する扶養宣誓供述書(Form I-864)の内容や、過去の公的給付受給歴なども考慮対象です。特定の給付を受けたことだけで自動的に不許可になるわけではなく、あくまで他の要素と合わせた総合判断である点は今回も変わりません。

この10年で二転三転してきた制度

パブリックチャージの運用基準は政権交代のたびに大きく揺れてきました。

  • 2019年(第1次トランプ政権):対象給付を大幅に拡大する厳格なルールを導入
  • 2022年(バイデン政権):対象を「現金扶助」と「政府負担による長期施設入所」のみに限定する狭い基準に戻す
  • 2026年7月20日:国土安全保障省(DHS)が2022年ルールを撤廃する最終規則を連邦官報に掲載
  • 2026年8月18日:USCISが新運用指針(Policy Alert PA-2026-09)を発表
  • 2026年9月18日:新指針・新様式が施行

つまり今回の変更は、2022年の「狭い基準」を撤廃し、再び審査官に幅広い裁量を与える「広い基準」へ回帰する内容ということになります。

何が変わるのか:対象給付の大幅拡大

最大のポイントは、審査で考慮される公的給付の範囲が広がることです。

9月18日より前に受給した給付は、これまで通り「現金扶助」と「政府負担の長期施設入所」のみが対象。

9月18日以降に受給した給付は、これに加えて以下も考慮対象になり得ます。

  • 住宅支援(住宅バウチャーなど)
  • SNAP(フードスタンプ)
  • メディケイドなどの医療扶助
  • 大学など高等教育のための経済的支援

給付を受けた時期がその審査上の扱いを分ける基準になるため、「いつ・どの給付を受けたか」の記録が今後は重要になります。なお、申請者本人以外(配偶者や子どもなど同居家族)が受給した給付は、原則として申請者自身の受給とはみなされません。特にアメリカ生まれの市民権を持つ子どもが受けるメディケイドやSNAPは、親の申請には影響しないとされています。

誰が対象で、誰が対象外か

原則として、アメリカ国内で永住権への変更(Adjustment of Status)を申請するほぼすべての外国人がパブリックチャージ審査の対象です。米国民・永住者の家族、専門職・技能労働者、投資家なども含まれ、「家族が米国民だから自動的に免除される」わけではありません。

一方で、以下のカテゴリーは原則として審査対象外(免除)です。

  • 難民、亡命者
  • 特別移民少年(SIJ)
  • 人身取引被害者(Tビザ)
  • 犯罪被害者(Uビザ)
  • 女性に対する暴力防止法(VAWA)に基づく自己申請者
  • 一時的保護資格(TPS)申請者や、キューバ調整法など特定の法律に基づく永住権申請者

ただし同じ人物でも、申請するビザカテゴリーによって適用の有無が変わる場合があるため、自分がどの区分に該当するかの確認が欠かせません。

保証金(パブリックチャージ・ボンド)という選択肢

パブリックチャージを理由に不許可となりそうな場合、USCISは申請者に保証金の提供を認めることがあります。金額は今後5年間に見込まれる政府支援額などをもとに個別に設定され、最低額は1,000ドルとされていますが、状況次第でこれを大幅に上回ることもあります。

この保証金は申請者が任意に差し出せるものではなく、USCISから正式な案内があった場合に限り「Form I-945」で手続きします。また、保証金を提供した後に対象給付を受給した場合や条件に違反した場合は、保証金が没収(breach)される仕組みになっている点も要注意です。

様式(Form I-485)も同時に刷新、猶予期間なし

新指針と同時に、永住権申請の基本様式である「Form I-485」も改訂されます。

  • 9月17日以前に郵送・オンライン提出:現行版(01/20/25版)を使用
  • 9月18日以降に郵送・オンライン提出:新版(09/18/26版)が必須

ここで特に注意したいのが、猶予期間が一切設けられていないという点です。9月18日以降に旧版を提出すると、USCISはそれを受理せず返送します。返送された申請は「提出済み」として扱われないため、優先日の維持や子どもの年齢基準(CSPA)に関わるケースでは、数週間の再提出遅れが致命的になりかねません。提出直前には必ずUSCIS公式サイトで最新版を確認することが強く推奨されます。

様式の内容面では、これまで「現金扶助の受給歴」と「長期施設入所歴」を別々に尋ねていた質問が、新版では「これまでに何らかの資力調査型公的給付(means-tested public benefit)を受けたことがあるか」という一つの包括的な質問に統合されます。あわせて、様式の説明文にあった詳細な解説の多くが削除されており、申請者はUSCISのオンライン資料を別途確認する必要が出てきます。

賛否両論:政策をめぐる評価

移民・人権擁護団体は、今回の厳格化を「アメリカンドリームの否定・崩壊」と強く批判しています。過去の同種の議論でも、対象が低所得層や特定の出身国に偏りやすいこと、給付利用への「萎縮効果(chilling effect)」によって本来受給資格のある市民権を持つ子どもまでもが必要な支援を控えてしまう懸念などが指摘されてきました。

一方で支持する立場からは、「自立(Self-Sufficiency)の重視」と「納税者負担の軽減」を理由に、制度の健全化だと主張されています。DHSも、2022年の狭い基準は議会が本来審査官に求めていた考慮要素を十分に反映していなかった、との立場を示しています。

実務上、今どう動くべきか

現時点で調整地位の申請(Adjustment of Status)を検討している、あるいは準備中の方は、次の点を意識しておくとよいでしょう。

  1. 提出日が適用ルールを決める:9月18日より前に受理されれば2022年基準、それ以降は新基準が適用されます。急ぐべきかどうかはケースバイケースなので、早計に判断せず専門家に相談を。
  2. 給付の受給記録を整理しておく:いつ・どの給付を・誰が(本人か家族か)受けたかを時系列で把握しておくと、審査対応がスムーズになります。
  3. 自己判断で給付を中止しない:影響の有無はケースごとに異なります。不安があるからといって必要な給付を自己判断で止めることは、かえって生活面のリスクを高めかねません。
  4. 提出直前に様式のバージョンを再確認する:猶予期間がないため、9月中旬に申請予定がある方は特に注意が必要です。

まとめ

今回のパブリックチャージ新基準は、2022年に一度狭められた運用を再び広げ、審査官の裁量を拡大するものです。対象給付の範囲拡大、様式の刷新、そして猶予期間なしという運用の厳格さが特徴で、家族ベース・雇用ベースを問わず多くのグリーンカード申請者に影響が及びます。シリコンバレーで働く駐在員やビザ保持者にとっても、将来的に永住権を検討するタイミングでは避けて通れないテーマです。個別の状況に応じた判断が何より重要なので、疑問点があれば早めに移民法専門の弁護士に相談することをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法律上の助言ではありません。個別の状況については必ず移民法に詳しい弁護士にご相談ください。