アメリカでH-1Bなどの就労ビザで働く人にとって、突然の解雇は仕事だけでなく、アメリカに滞在できる期間にも直結します。

その際の重要なセーフティネットとなっているのが、雇用終了後に認められる「最大60日間のグレースピリオド」です。

2026年8月、米国土安全保障省(DHS)・米国市民権・移民局(USCIS)が、この制度を廃止する方向の規則案を進めていることが明らかになりました。

ただし、最初に最も重要なことを確認しておきます。

2026年9月3日現在、60日間のグレースピリオドは廃止されていません。現行制度は引き続き有効です。

8月27日にホワイトハウスの審査が終了

米政府の規制情報サイトReginfo.govには、DHS・USCISによる規則案が、

“Eliminating the Discretionary 60-day Grace Period”
(裁量による60日間のグレースピリオドの廃止)

という名称で登録されています。

規則番号は RIN 1615-AD22

記録によると、この規則案は2026年8月6日にOMB(行政管理予算局)傘下のOIRAへ提出され、8月27日に審査が終了しました。

ステータスはあくまで “Proposed Rule(規則案)” です。

つまり、「政府が廃止を検討している」という段階から一歩進んだことは事実ですが、新しいルールが発効したという意味ではありません。

現在の「60日ルール」とは

現在の制度は、連邦規則 8 CFR 214.1(l)(2) に基づくものです。

対象となっているのは、

E-1、E-2、E-3、H-1B、H-1B1、L-1、O-1、TN

などの就労系非移民資格です。

勤務先との雇用関係が終了した場合、DHSは原則として、

最大60日間、または現在認められている滞在期間の終了日までの、どちらか短い期間

について、雇用終了だけを理由に「ステータスを維持していない」と扱わないことができます。

この制度は2016年11月に公布された最終規則によって創設され、2017年1月17日に発効しました。

重要なのは「必ず60日もらえる」という制度ではないことです。

規則上は “up to 60 consecutive days”、つまり「最大60日」であり、DHSには期間を短くしたり認めなかったりする裁量があります。

また、60日より前にI-94などで認められている滞在期間が終了する場合、60日間すべて滞在できるわけではありません。

自分から退職した場合も対象になり得る

「レイオフされた人だけが使える制度」と理解されることがありますが、現在の規則は必ずしも解雇だけに限定されていません。

移民法専門のFragomenによると、現在の60日ルールは、雇用終了が自発的な退職であっても、会社側からの解雇であっても適用対象になり得ます。

ただし、実際にどの期間が認められるかは個々のケースや在留資格、I-94の有効期限などによって異なります。

60日間は「自由に働ける期間」ではない

ここも誤解されやすいポイントです。

60日間のグレースピリオドそのものが、新たな就労許可を与えるわけではありません。

DHSは制度創設時の最終規則で、グレースピリオド中に独立した就労資格を与えるものではないことを明確にしています。

ただしH-1Bの場合など、別の法律上の要件を満たし、新しい雇用主が適切にH-1B petitionを提出した場合には、いわゆるH-1B portabilityによって新しい勤務先で働き始められるケースがあります。

これは「60日間だから働ける」という仕組みではなく、別のH-1B規定によるものです。

では、60日間は何のためにあるのか

2016年にDHSがこの制度を導入した際、目的の一つとして挙げたのは、突然雇用を失った高度技能労働者が対応するための時間を確保することでした。

その期間に、新しい雇用主を探して必要な申請を行ったり、別の非移民資格への変更を申請したり、アメリカを出国する準備をしたりすることが想定されています。

USCISも過去の公式案内で、雇用を失った非移民労働者について、条件を満たせばステータス変更などの選択肢があると説明しています。

今回の規則案で何が変わるのか

ここからが非常に重要です。

現時点では、まだ正確にはわかりません。

OMB/OIRAの公開記録で確認できるのは、規則案の名称が

「Eliminating the Discretionary 60-day Grace Period」

であることと、8月27日に審査が終了したことなどです。

肝心の規則案本文は、2026年9月3日時点でFederal Registerに正式公開されていません。

そのため、

「60日が完全にゼロになるのか」

「対象となるすべてのビザカテゴリーで廃止されるのか」

「例外措置が設けられるのか」

「すでにアメリカにいる人への経過措置があるのか」

「新制度がいつから適用されるのか」

といった詳細については、現時点では断定できません。

Fragomenも、具体的な内容はFederal Registerで規則案が公開されるまで分からないとしています。

「明日から失業したら即出国」ではない

今回のニュースを見て、

「これからH-1Bでレイオフされたら、その日にアメリカを出なければならない」

と思う人もいるかもしれません。

しかし、現在はそうなっていません。

2026年9月3日時点では現行の8 CFR 214.1(l)(2)が存続しており、最大60日の制度は有効です。

新しい規則案は、Federal Registerへの公表、パブリックコメントなどの規則制定手続きを経て、その後最終規則として成立しなければ発効しません。

Fragomenによれば、規則案が公表された場合、通常30日または60日程度のパブリックコメント期間が設けられ、その後DHSがコメントを検討して最終規則を作成する流れになります。

したがって、

OMBの審査終了 = 60日ルール廃止決定

ではありません。

日本人への影響は

この問題はH-1Bだけの話ではありません。

現行の60日ルールには、L-1、E-1、E-2、O-1なども含まれています。

L-1は企業内転勤、E-1・E-2は貿易・投資に関連する資格として利用されているため、日本企業の米国駐在員やアメリカで働く日本人にも関係する可能性があります。

また、現行規則では対象となる本人だけでなく、一定の扶養家族のステータスにも関連します。Fragomenも、今回の提案について本人だけでなくdependentsへの影響を指摘しています。

規則案が公開された時点で、日本人にとって特に重要になるのは、E-1、E-2、L-1、H-1Bなどが最終的にどのように扱われるかです。

「合法移民抑制が狙い」と断定できる?

ここについては慎重に見る必要があります。

今回の規則案はトランプ政権下のDHS・USCISによって進められているものですが、公開されているOIRAの記録だけから「合法移民の流入・定着を抑制することがこの規則の公式な目的だ」と断定することはできません。

規則案の本文やDHSによる正式な理由説明がまだ公開されていないためです。

政治的な背景や政策全体から意図を分析することと、政府が規則の目的として公式に何を説明しているかは分けて考える必要があります。

事実ベースで見るなら、現段階で確認できるのは、

DHS・USCISが「裁量による最大60日のグレースピリオドを廃止する」と題した規則案を作成し、2026年8月27日にOMB/OIRAの審査を終えた

というところまでです。

今後注目すべきポイント

次の大きな動きは、DHSが規則案をFederal Registerに正式掲載することです。

そこで初めて、対象となるビザ、制度廃止の具体的な方法、例外、移行措置、政府が示す変更理由などを正確に確認できるようになります。

それまでは、「60日ルールが廃止された」という情報ではなく、

「廃止を目指す規則案がホワイトハウスの審査を通過した」

と理解するのが最も正確です。

2026年9月3日現在、最大60日のグレースピリオドは引き続き有効です。

※本記事は2026年9月3日時点の米政府公開情報をもとにまとめた一般的な情報です。個別の在留資格や雇用終了後の対応については、I-94、有効期限、申請状況などによって結果が異なるため、必要に応じて米国移民法を扱う専門家へ確認してください。