USCISが2026年5月に公表した新指針により、アメリカ国内でのグリーンカード申請(AOS)は「例外的な救済」として厳格化。H-1B、F-1、結婚ベース、ESTA入国、審査中のI-485への影響を、公式情報に基づいてわかりやすく解説します。

「面接は母国で」は本当か? USCIS 新指針で変わるグリーンカード申請の実務
2026年5月、USCIS(米移民局)は、アメリカ国内で永住権へ切り替える手続き、いわゆる**Adjustment of Status(AOS)**について、従来よりも厳格な姿勢を打ち出した。広報文では、一時的に米国に滞在している人がグリーンカードを望む場合、原則として国外の領事館手続きを通るべきだという強いメッセージが示され、多くの申請者や家族、雇用主、大学関係者の間で混乱が広がっている。USCIS
ただし、見出しだけを読むと実態を誤解しやすい。今回の変更は、AOSという制度そのものを廃止したわけではない。そうではなく、USCISがI-485審査で行う「裁量判断」を大きく引き締め、米国内での永住権切り替えを“通常ルート”ではなく“例外的救済”として見る方向へ舵を切ったことに意味がある。USCIS Policy Manual USCIS Memo PDF
USCIS が何を発表したのか
USCISが2026年5月22日に公表した内容の核心は、Adjustment of Statusは権利ではなく、行政上の恩恵であり、通常の移民ビザ取得手続きである海外の領事館申請を置き換えるための制度ではない、という点を改めて強調したことにある。USCISは、審査官に対して「個別事情を総合考慮し、AOSを認めるに足る特別な事情があるかを厳しく見るように」と指示している。USCIS USCIS Memo PDF
この広報は、「今後は一時滞在者がグリーンカードを望むなら母国へ戻って申請するべきだ」とも読める表現を含んでおり、SNSや報道では「米国内申請はもうできないのか」という不安が急速に広がった。しかし、実務上はもう少し複雑だ。USCISの政策メモ自体は、一律の全面禁止ではなく、厳格なケースごとの裁量審査を前提にしている。USCIS Memo PDF Quarles
I-485 による米国内AOSはなくなったのか
結論から言えば、なくなってはいない。USCISのポリシーマニュアル上、AOSの基本要件は引き続き存在している。具体的には、適法な入国またはパロール、適切なI-485提出、米国内滞在、移民ビザ資格、ビザ番号の利用可能性、米国への許容性、そして好意的な裁量判断に値すること、が主な要件とされている。USCIS Policy Manual
重要なのは、今回の新方針によって変わったのが入口ではなく出口だという点だ。つまり、「I-485を提出できるか」という問題よりも、「最終的にUSCISがそれを国内で認めるか」が、以前よりはるかに厳しく見られるようになった。これまで比較的ルーティンに近かった案件でも、今後は「なぜ国外手続きではなく米国内AOSが妥当なのか」がより厳しく問われる可能性がある。USCIS Memo PDF Quarles
影響を受けやすいのは誰か――H-1B と F-1 では何が違うのか
今回の変更で比較的影響が小さいと見られているのは、H-1BやL-1など、いわゆる「デュアルインテント」が法的に認められているカテゴリーだ。USCISのメモでも、こうした分類では、永住意思を持ちながら非移民資格を維持すること自体は制度上否定されないと認めている。ただし、それでもデュアルインテントであることだけで自動的にAOSが認められるわけではないと明記されている。USCIS Memo PDF Quarles
一方で、F-1、J-1、B-1/B-2、ESTAなど、一時滞在目的が強く前提となる資格は、より厳しい視線にさらされやすい。USCISは広報で、学生や観光客、短期滞在者の米国滞在は本来一時的なものであり、それがそのまま永住権取得の第一歩になるべきではないという考えを鮮明にしている。とくに、入国目的とその後の行動にずれがあるケースは、今後いっそう慎重に見られるだろう。USCIS Colorado ISSS
「母国で面接」はどこまで正しいのか
「面接は母国で」という表現は、読者に強い印象を与える半面、現時点ではやや単純化しすぎている。確かにUSCISは、海外の領事館手続きを“本来のルート”として前面に出した。しかし、政策メモ自体は、AOSを完全否定しているのではなく、例外的・裁量的なものとして厳格に扱うという立て付けだ。そのため、現実には「全員が必ず国外面接に回される」と断定するより、国内AOSが認められにくくなったと理解するほうが正確である。USCIS USCIS Memo PDF
実務家の分析でも、この新基準は新規申請だけでなく、まだ承認されていない保留中のI-485案件にも影響し得ると受け止められている。つまり、「審査待ちだから安全」とも、「今すぐ全員が出国を命じられる」とも言えない、不透明な移行期に入ったということだ。Quarles American Immigration Council
結婚ベースの永住権申請はどうなるのか
もっとも注目されるのは、米国市民または永住者との結婚に基づくグリーンカード申請への影響だ。この場合も、AOSが即座に消えたわけではない。ただし今後は、どのビザで入国したのか、入国時にどのような意思があったのか、入国後に滞在条件に違反していないかといった点が、これまで以上に厳しく見られる可能性が高い。USCIS Memo PDF
とくに、観光ビザやESTAで入国した後、短期間で結婚・永住権申請へ進むケースは注意が必要だ。ただし、ここでも誤解は禁物である。米国務省のForeign Affairs Manualでは、AOSや在留資格変更の申請をしたこと自体だけでは、90日ルールに基づく虚偽申告の推定は成立しないとされている。問題になるのは、単に申請書を出したかどうかではなく、許可された滞在目的と矛盾する行動を実際に取ったかである。U.S. Department of State – FAM
面接免除は本当に消えたのか
ここも報道で誤解されやすいポイントだ。USCISの現行ポリシーマニュアルでは、AOS申請者は原則として面接対象だが、面接免除の制度自体は残っている。つまり、「制度として完全廃止された」と断言するのは正確ではない。USCIS Policy Manual
ただし、家族ベース案件、とくに結婚ベースでは、I-130申立人と申請者がそろって面接に出るのが一般的であり、実務上は面接が強く想定される。したがって、読者向けには「面接免除制度が完全に消滅した」というより、結婚ベース案件では今後いっそう面接重視になる可能性が高いと説明するのが適切だ。USCIS Policy Manual
USCISが重視する「マイナス事情」とは何か
今回のメモで目立つのは、USCISが裁量判断で考慮すべきネガティブファクターを強く打ち出していることだ。無許可就労、ステータスの不維持、入国時の説明と矛盾する行動、移民法違反、虚偽申告、滞在終了後に予定どおり出国しなかったことなどは、今後これまで以上に重く扱われる可能性がある。USCIS Memo PDF Quarles
逆に、家族関係の強さ、良好な法令順守歴、人道上の事情、米国社会への貢献などはプラス要素になり得る。ただし、USCISは「こういう事情があれば必ず国内AOSを認める」という明確なリストを提示していない。だからこそ、同じビザ種類でも、個別事情によって結論が大きく変わり得る。USCIS Memo PDF Colorado ISSS
すでに審査中の I-485 はどうなるのか
現在もっとも不安が大きいのは、すでにI-485を提出して審査待ちになっている人たちだ。新メモには、保留中案件を明示的に保護する経過措置が書かれていない。そのため、実務家の多くは、まだ承認されていない案件には新しい厳格基準が適用される可能性があると見ている。Quarles
一方で、USCIS側の発信はなお不明瞭で、すべての保留案件にどこまで一律で影響するのかははっきりしていない。この不透明さが、申請者や家族、企業の人事担当者に混乱を広げている最大の要因だといえる。American Immigration Council
日本人申請者が特に注意すべき理由
日本人に多いのは、F-1から就労へ進むケース、H-1Bで働きながら永住権申請へ進むケース、米国市民との結婚に基づく申請、そして短期滞在中の交際・婚約・結婚をきっかけとした相談である。こうしたケースでは、一見似ていても、入国時の説明、過去の出入国歴、就労の有無、現在のステータス維持状況によって法的評価が大きく異なる。USCIS Policy Manual U.S. Department of State – FAM
特に注意したいのは、「出国すれば面接を受けて終わり」と軽く考えないことだ。人によっては、出国によって再入国禁止条項の問題が生じたり、家族と長期間離れるリスクが現実化したりする。だからこそ、今回の新方針のもとでは、自己判断で動くのではなく、個別事情に応じた法的検討がこれまで以上に重要になる。American Immigration Council Colorado ISSS
今後の見通し――これは確定ルールなのか
この政策メモは、今後法的に争われる可能性が高い。支援団体や一部の実務家は、USCISが「AOSは本来まれな救済だった」と解釈していることに強く反発しており、議会は長年にわたってAOSを正規の並行ルートとして維持してきたと指摘している。したがって、今後、差し止め訴訟や運用変更が生じる余地は十分にある。American Immigration Council Quarles
2026年5月時点で言えるのは、AOSはまだ残っているが、以前のように当然視できる手続きではなくなったということだ。ニュースの強い見出しに振り回されるのではなく、自分がどの非移民資格に基づいて滞在しているのか、過去の入国経緯に問題がないか、出国した場合の不利益がないかを個別に検討する必要がある。USCIS Memo PDF
編集部まとめ
USCISの新指針は、「もう全員が母国で面接」という単純な話ではない。より正確には、米国内AOSが“例外扱い”へ近づき、特に単一目的の非移民資格からの永住権切り替えが厳しく見られるようになったという変化である。H-1BやL-1のようなデュアルインテントのケースではなお余地がある一方、F-1、観光、ESTA、結婚直後の申請などは、これまで以上に慎重な判断が求められる。USCIS Quarles
日本人向け・ケース別Q&A
Q1. H-1B で働いています。グリーンカード申請はまだ米国内で進められますか
可能性はまだあります。H-1BやL-1のようなデュアルインテントが認められる資格は、今回の新方針の下でも相対的に有利と見られています。ただし、USCISは「デュアルインテントであることだけでは足りない」としており、最終的には個別事情を踏まえた裁量判断になります。USCIS Memo PDF Quarles
Q2. F-1 留学中です。卒業後に結婚や就職を通じて永住権へ進むのは危険ですか
危険というより、これまで以上に審査が厳しくなる可能性が高いと考えるべきです。F-1は一時滞在目的の資格であり、USCISは今回、一時滞在資格をそのまま永住権取得の足がかりにすることへ強い警戒感を示しています。入国時の説明やその後の行動、ステータス維持状況が非常に重要になります。USCIS Colorado ISSS
Q3. ESTAや観光で入国した後に米国市民と結婚しました。もう米国内申請は無理ですか
「もう無理」とまでは言えませんが、最も慎重な検討が必要な類型の一つです。特に、入国直後から結婚や永住権申請が予定されていたと疑われると、移民意思や虚偽申告の問題が出やすくなります。ただし、申請したこと自体だけで90日ルール違反になるわけではなく、重要なのは実際の行動と意図の整合性です。U.S. Department of State – FAM USCIS Memo PDF
Q4. すでに I-485 を出しています。今から国外手続きに切り替えさせられますか
現時点では一律にそうなるとまでは言えません。ただ、新メモには保留案件を守る明確な経過措置がなく、審査中案件にも厳格な裁量基準が及ぶ可能性があります。追加資料要求や面接で、なぜ米国内AOSが妥当なのかをより詳しく問われる可能性があります。Quarles American Immigration Council
Q5. 結婚ベースなら面接は必須ですか
USCISの現行ルールでは、AOS案件は原則面接対象で、家族ベースでは申請者と申立人が一緒に出席するのが一般的です。一方で、制度としての面接免除自体は残っています。したがって、「絶対に全件面接」と断定するより、結婚ベースでは面接前提で準備すべきと考えるのが現実的です。USCIS Policy Manual
Q6. 出国して領事館面接を受ければ、それで安全ですか
そうとは限りません。人によっては、出国によって再入国禁止条項や家族分断、就労継続不能などの問題が生じます。特に、過去にオーバーステイや無許可就労があるケースでは、出国自体が重大なリスクになる場合があります。American Immigration Council
Q7. 日本人は何を最優先で確認すべきですか
最優先は、現在の非移民ステータスが有効か、入国時の説明と現在の状況に矛盾がないか、出国した場合に法的不利益が生じないかの3点です。今回の変更は、一見同じように見える案件でも結論が大きく変わりやすいため、一般論だけで判断しないことが重要です。USCIS Policy Manual Colorado ISSS

