「気づいたら自動更新されていた」「解約手続きが複雑すぎて諦めた」――サブスクリプションサービスが生活に浸透する一方で、その解約のしにくさや、購入手続きの終盤で加算される「ジャンク料金」と呼ばれる隠れた手数料は、多くの消費者を悩ませる問題となっています。こうした状況に対し、米国では連邦政府、州、そして都市レベルで、消費者を保護するための新たな規制が次々と導入されています。特にニューヨーク市が全米初の「ワンクリック解約」を義務付ける新規則を発表したことは、この動きを象徴する出来事と言えるでしょう。本記事では、米国におけるサブスクリプション解約規制とジャンク料金規制の最新動向を深掘りし、その背景と今後の展望について解説します。
連邦レベルの動向:FTCの挑戦と「ジャンク料金」規制
米国の連邦取引委員会(FTC)は、消費者を保護するため、長らくサブスクリプションサービスにおける不透明な慣行に目を光らせてきました。
「クリック-トゥ-キャンセル」規則の挫折と現状
FTCは2024年10月、サブスクリプションの解約を容易にするための「クリック-トゥ-キャンセル」規則(Negative Option Ruleの改正)を最終決定しました 。これは、事業者がオンラインでの契約と同じくらい簡単にオンラインで解約できる手段を提供することを義務付けるものでした。しかし、この規則は2025年7月、米国第8巡回控訴裁判所によって全面的に無効とされてしまいました 。裁判所は、FTCが規則制定プロセスにおいて必要な手続き要件を遵守しなかったと判断したためです。2026年7月現在、新たな連邦レベルでの「クリック-トゥ-キャンセル」規則はまだ完全に施行されていませんが、FTCは既存の権限(FTC法第5条)を用いて、引き続き欺瞞的な商慣行に対する執行を追求しています 。

「ジャンク料金」規則の施行
一方で、FTCは「ジャンク料金」(Rule on Unfair or Deceptive Fees)に関する規則を2025年5月12日に施行しました 。この規則は、「おとり商法」的な価格表示を禁止し、事業者が提示する価格に、必須となる全ての料金(サービス料、処理手数料など)を含めることを義務付けています。ホテル、イベントチケット、賃貸住宅などの業界が主な対象となり、消費者が最終的に支払う金額を明確にすることで、価格の透明性を高めることを目的としています 。
州・都市レベルの規制:広がる「ワンクリック解約」の波
連邦レベルでの「クリック-トゥ-キャンセル」規則が法廷で争われる中、各州や都市は独自の消費者保護策を積極的に導入しています。これにより、米国全体では規制の「パッチワーク」状態が生まれています。
カリフォルニア州:厳格な自動更新法(AB 2863)
カリフォルニア州では、自動更新法(Automatic Renewal Law: ARL)が以前から存在していましたが、2025年7月1日に施行されたAB 2863によってさらに強化されました 。この改正法は、事業者に以下の点を義務付けています。
•容易な解約メカニズム: 契約時と同じくらい簡単に解約できる「クリック-トゥ-キャンセル」メカニズムの提供。
•年間更新通知: 自動更新の前に、年間更新通知を消費者に送付すること。
•「引き止め」の制限: 解約を申し出た消費者に対し、明確な解約経路を提示する前に「引き止め」のためのオファー(例:割引提案)を行うことを禁止。
カリフォルニア州の規制は全米で最も厳格な部類に入り、多くの全国展開企業がこの基準に合わせてサービスを提供しています。
ニューヨーク市:全米初の市レベル規制
冒頭で触れたように、ニューヨーク市は2026年7月10日、マムダニ市長と消費者・労働者保護局(DCWP)が、自動更新サービスとジャンク料金を規制する新たな消費者保護策を発表しました 。この規則は2026年10月1日から発効します。
•ワンクリック解約の義務化: 自動更新や継続サービスの契約に対し、契約条件の明確な開示と、簡単で分かりやすい解約方法の提供を義務付けます。オンラインで何段階もの操作を求めるような、解約を妨げる仕組みは禁止されます。
•ジャンク料金の規制: 商品やサービスの広告価格に、支払いが必須の料金を全て含めるよう求めます。料金の目的、金額、返金の可否について誤解を招く表示も禁止されます。この部分はまだ提案段階のものもありますが、ホテル料金など一部は既に最終決定されています 。
ニューヨーク市は、この規則が年間2150万ドルから1億6250万ドルの節約につながると試算しており、自治体レベルでの取り組みとしては全米初となります 。
コロラド州:オンライン解約の強化(SB25-145)
コロラド州でも、2025年8月6日にSB25-145が施行され、自動更新契約に関する規制が強化されました 。特にオンラインで契約されたサブスクリプションに対して、より厳格な情報開示とオンラインでの解約リンクの提供を義務付けています 。
その他の州
カリフォルニア、ニューヨーク、コロラド以外にも、ミネソタ州、コネチカット州、マサチューセッツ州など、多くの州が2025年から2026年にかけて同様の法律を導入または改正し、消費者保護を強化する動きを見せています 。
「パッチワーク」問題と企業への影響
連邦レベルの「クリック-トゥ-キャンセル」規則が不在であるため、米国では州や都市ごとに異なる規制が存在する「パッチワーク」状態となっています。これは消費者にとっては保護が手厚くなる一方で、全国展開する事業者にとっては複雑な課題を提起します。
多くの企業は、最も厳格な州(例えばカリフォルニア州やニューヨーク市)の規制に準拠することで、全国的なコンプライアンスを確保しようとする傾向にあります。これにより、結果的に全国の消費者がより手厚い保護を受けられる可能性もあります。
消費者へのアドバイス
米国全体で消費者保護の動きが加速しているとはいえ、依然として不透明な慣行が存在する可能性はあります。消費者は自身の権利を守るために、以下の点に留意することが重要です。
•契約条件の確認: サービスを申し込む際は、自動更新の有無、解約方法、料金体系を必ず確認しましょう。
•記録の保存: 契約条件、請求画面、解約手続きの記録(スクリーンショットやメールなど)を保存しておきましょう。
•不審な請求の報告: 不審な請求や解約ができない場合は、各州の消費者保護機関やFTCに相談することを検討してください。
まとめ
米国では、サブスクリプションサービスの「ワンクリック解約」や「ジャンク料金」の規制が、連邦、州、都市の各レベルで活発に進められています。連邦レベルの規則には法的な課題があるものの、カリフォルニア州やニューヨーク市のような先進的な取り組みが、消費者保護の新たな基準を打ち立てつつあります。これにより、消費者はより透明性の高いサービスと、容易な解約の権利を享受できるようになるでしょう。企業にとっては、これらの多様な規制への対応が求められますが、最終的には消費者からの信頼獲得につながるものと期待されます。
